大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

堺簡易裁判所 昭和42年(ハ)179号 判決

原告 岡田綱子

右訴訟代理人・弁護士 玉生靖人

同 徳田勝

被告 伴野薫三

右訴訟代理人・弁護士 上田稔

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は原告に対し、堺市浜寺昭和町二丁目二五一番地の三。

(一) 別紙図面(一)の2(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を結ぶ直線によって囲まれた部分の地上にあるブロック塀、

(二) 別紙図面(二)記載の地中に埋設されている合製樹脂製の水道管及び下水排水管を収去せよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1  原告は堺市浜寺昭和町二丁目二五一番地の三宅地四六・三一平方メートル(以下甲地という)及びその西側に隣接する同番地の二、宅地一〇七・四三平方メートルを所有し、被告は甲地東側に隣接する同所同番地の一宅地三三〇・五七平方メートル(以下乙地という)を、その地上建物とともに、原告から買受けて所有している。

2  原告と被告は右土地建物の売買契約において、甲地と乙地の境界線別紙図面ABの二点を結んだ直線に接して双方より幅五センチメートルづつ土地を出し合い、共同費用をもってブロック塀を構築すること、その工事は第三者に請負わせることを特約した。

3  ところが被告はその後自らの手でブロック塀の構築を始めたので原告は被告に対し再三その工事を中止するように申入れたが、被告はこれに応ぜず、右工事を強行し、これを完成させてしまった。

ところが、被告が構築した右ブロック塀は、右特約より北端で三センチメートル、南端で七・五センチメートル余分に甲地内へ侵入し、甲地のうち別紙図面(一)の2(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を結ぶ直線によって囲まれた部分の土地〇・八六一平方メートルを侵害している。

4  なお、被告は甲地別紙図面(二)記載の箇所の地下四センチメートルのところに合成樹脂製の内径一〇センチメートルの下水排水管と同内径三センチメートルの水道引込管を埋設して同土地を侵害している。前記売買契約によれば甲地内にある止水栓は原告が使用し、被告は別途乙地内に止水栓を新設する契約であったのに被告は甲地内にある止水栓に連結して水道管を埋設している。

二、請求の原因に対する答弁

1  請求の原因12はいずれも認める。

2  同3はブロック塀を構築したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同4は原告主張どおり下水排水管が埋設されていることは認めるがその余の事実は知らない。かりに原告主張どおり水道管が埋設されているとしても、前記売買契約によれば、止水栓及び引込管は被告の所有である。止水栓が甲地内にある場合はそれを買主たる被告の敷地すなわち乙地に移転する約束であった。

三、抗弁

1  土地使用貸借≪省略≫

2  地役権≪省略≫

3  権利濫用

かりに原告にブロック塀、下水排水管、水道管の収去請求権があるとしても、被告に対し右請求権を行使して右工作物の収去を求めるのは、左の理由により権利の濫用である。

(1) 被告はブロック塀の構築を工事人に委せておいたところ、工事人が測量を間違ったのである。原告は右現場近くに居住し毎日右工事を見ていたに拘らずこれに対しなんら異議を述べなかった。

(2) 右ブロック塀が完成した後、原告からもうすこし塀を高くしてくれるようにとの申入れがあったので被告自らコンクリートを二段積重ねた。

(3) 被告が、右ブロック塀を収去するとすれば、被告の炊事場、風呂場等を取りこわさねばならずその損害は金一〇〇万円と見込まれる。

それに引きかえ被告が原告主張のとおり甲地を侵害しているとしてもその面積は僅か〇・八六一平方メートル(長さ一六・四メートルなるも幅は三乃至七・五センチの極めて細長い土地である)損害は被告の右損害に比すべきものではない。

(4) 被告は原告主張の侵害部分の土地を時価又は時価より少々高くても買取る用意があり原告が売らぬと言えば当分相当の賃料をもって賃貸せられたい。

(5) 水道管についてはかつて止水栓とともに収去する旨原告に申入れたところ原告において暫時待って欲しいとの要請があったので中止した。

四、抗弁に対する答弁

原告は被告に対しブロック塀をより高くするよう要求したことはなく、ブロック塀構築工事中再三異議を述べている。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、原告主張・請求の原因12及び3のうち被告がブロック塀を構築したことについては当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によれば、甲地と乙地の境界線は別紙図面(一)の1との二点を直結した線で被告が構築したというブロック塀は右境界線より五センチメートル西側(甲地側)において境界線と平行する線よりその北端において更に三センチメートルその南端において更に七・五センチメートル甲地に侵入していることが認められる。

三、被告が甲地内に原告主張のとおり合成樹脂製内径一〇センチメートルの下水排水管を右境界線にそうて埋設していることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、被告が甲地内にある止水栓より給水のため原告主張のとおり前記境界線にそうて内径三センチメートルの水道管(引込管)を埋設していることが認められる。

四、原告は甲地の所有権にもとづく妨害排除請求権によりこれら工作物の収去を求めるものであるが≪証拠省略≫によれば(一)本件甲地及び乙地はもと一筆の土地として原告が所有し乙地部分に居宅を建築所有していたこと(二)当時下水排水管及び水道引込管はいずれも甲地を経由していたこと(三)原告は金の入用ができ右土地を甲地と乙地に分筆し乙地及び乙地上の右建物を被告に売渡したこと(四)被告がブロック塀によって甲地を侵害している部分は境界線に沿うて僅か〇・八六一平方メートルに過ぎず原告に損害があるとしてもその損害は極めて軽微であるに反し、被告がこれを是正するため右ブロック塀をとりこわすとすれば、塀に接着して新築した被告方の炊事場風呂場の一部を取りこわさねばならないこと、これによって被告が受ける損害は約一〇〇万円と見込まれること(五)下水排水管は旧管の上に積重ねて旧管にこれを連結していること(六)下水排水管及水道引込管はいずれも甲地と乙地の境界線の近くで境界線にそうて埋設されていること、(七)被告は原告所有の甲地の一部を右ブロック塀の構築下水排水管水道引込管の埋設によって侵害していることをほぼ認め、その侵害部分の土地は時価又は時価より少し位高くても買取る旨申出ているが原告が応じないことが認められこれらの事情からすると原告が甲地の所有権にもとづき、前記各工作物の収去を求めるのは権利濫用であり許されない。

五、そうすると原告の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく失当としてこれを棄却すべく訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 天野要輔)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例